それでも、僕が農業を続ける理由


夢見たもの、失ったもの


それでも僕が農業を続ける理由 久野裕一 2007年は僕にとって大きな転機となった年でした

いくつかの大事なものを捨て、自分と自分の家族が大事にしてきたものに向き合うことができた年でした。

もともと東京で生まれ育った僕は、小学校のころから、
児童文学の灰谷健次郎さんの著作に惹かれ、農業に興味をもちはじめました。

「自分で畑を耕して、自分の口に入るものを育てたい」

「沖縄で、人として生きるやさしさを身につけて暮らして生きたい」

そう願って、いつの日か沖縄で農業をすることを夢に描いていました


沖縄移住、結果を受け入れるということ


縁あって、1997年3月、沖縄渡嘉敷島に移住。
念願だった有機農業を始めることになった僕と僕の家族は、島の人に助けられ、
決して楽ではありませんでしたが、 地道にやりがいのある仕事をし、島の一員として過ごしてきました。

ですが、内実は、農業をするには、自然環境的にも、流通の観点からも、渡嘉敷島は自分の能力では太刀打ちできない環境でした

来年はもっとよくなるはず、こうすればうまくいくはず。

そう思って日々精一杯やっていましたが、
外からみれば、それは自分の力の過信であり、結果の先送りに過ぎないことでした。
10年目のある日、本当のことを指摘してくれる仲間がアドバイスしてくれたものは、
「沖縄をとるか、農業をとるか」という選択でした。

永住の地と思い、「島を離れる」ことなど本気で考えたこともなかった僕にとっては、思考の限界を超え、呆然とするしかない出来事でした。

「まだできるはず」「まだやりようがあるはずだ」
そう思っている自分と

数字の上でも、方向性からも、
結果が伴わず、今後も厳しいといわざるを得ない、周囲から見た自分。

本当の自分を受け入れるには、ずいぶんと時間がかかりました。

転機と、居場所探し


10年間、骨を埋めるつもりで取り組んできた僕は、2007年3月、渡嘉敷島を離れました。幸い有機農業を学んだ師匠に声をかけられ、埼玉県小川町ですぐに農業を再開することができました。

2007年3月に農園を移転したのち、農業をやりながら、東京でWEBサイト(IRサイト)の企画営業職のサラリーマンをやりました。(5〜11月)、その後3人目の子供となる次女が誕生、専業農家に戻りました。

あわただしい生活の中で、

永住の地と思って精一杯全力を尽くしてきた沖縄をすててまで、自分が得たいと願っていたものは何なのか

ずっと自問していた日々でした。
無農薬野菜を育てている人はたくさんいて、無農薬野菜を紹介しお客様に届けてくれる流通、小売に携わる人もたくさんいる。

「農業」特に「無農薬野菜」という分野のなかに自分が求めている物があることだけははっきりわかっていても、「農業」のどこに自分の居場所があるのか、2007年は特にその居場所を探した年でした。

僕にとっての原点


小学校4年から中学にかけての僕は、いわゆる「いじめられっこ」でした。友達とのつながりがうまく持てずに、灰谷さんの『兎の眼』『太陽の子』という「本」に、わらをもつかむ思いでつながりを求めていました。

そこに描かれているのは、 「人はたくさんの命を食べて生きている」「人間だけでなく、たくさんの命のつながりのなかで人は生かされている」という世界観です。
命のつながりのなかで、それぞれの生を精一杯生きることにこそ意味があると語りかける灰谷さんの本は、今でも僕の価値観を形成している大きな要因になっています。

結局のところ、僕にとっての「農業」とは、芽が出て、本葉が育ち、花を咲かせ、実をつける、その間、野菜という命と関わることであり、育った命をお届けすることなのです

サプリメントやインスタント食品で健康な子供が育たないように、化学肥料ばかりで、いつも同じ畑に同じ野菜を作り続けるやり方では、元気な野菜は育ちません。

僕が関わりたいのは、元気に力強く野菜が育つ一瞬一瞬です。そして、そうやって育った元気な野菜をお届けして、おいしく食べていただきたいのです。

日々、力強く育つ野菜に寄り添っていると、不思議と力が湧いて来ます
この力は、この喜びは、なんなんだろう!
精一杯生きている人のそばにいると、なんだかわくわくして力をもらえるのと同じように、

自然の中の命によりそうことで、人は生きる喜びを実感できる

それが灰谷さんの伝えたかった一番大事なことだったんじゃないかと思います。

別れのメッセージ


2006年11月、不思議な体験をしました。
その日は結構しっかりした雨が降っていて、畑仕事を早々に切り上げた僕たち夫婦は、渡嘉敷島の村営住宅の1室から、ぼんやりと雨を眺めていました。

軽トラックで畑から家に帰る最中から、白い鳩が何度か視界に入るのに気づきました。

渡嘉敷島で鳩を見ることは皆無に近く、ましてや白い鳩は後にも先にもこの時限りでした。

その鳩は1階のベランダの手すりに止まり、数分雨宿りをして、やがて飛び立っていきました。

夫婦で、白い鳩なんてめずらしいねえ、ずいぶん長いこと雨宿りしてるねえ、と話していたのを今でもはっきり覚えています。


翌日、渡嘉敷島の住民でもあった灰谷さんが静岡で亡くなったと知らされました。


灰谷さんの著作は、僕を「農業」につなげてくれました。
いじめられていた自分にも、生きていく価値とか、喜びがあるかもしれないと、気づかせてくれました。

人は、自分以外の命の存在に気づいたとき、自分以外の命とのつながりを感じられたとき、幸せになれます

「食の来歴を知る」

灰谷さんが繰り返し語り続けたメッセージは、今も僕の中で生き続けています。


判断基準


技術は進歩し、「農薬は安全になった」「遺伝子組み換えも問題ない」と主張する人もいます。情報を得て、考えれば考えるほど、判断が難しくなってきているのは事実です。

変化の激しい時代のなかで、技術も資材も改良が加えられ、その中で何を選択していくのか?
未来永劫、変化しない判断基準を持つことは困難です。

それでも、久野農園として判断基準としている大原則は、「持続性」です

同じ畑で小松菜を育てると、1回目よりも2回目、2回目よりも3回目というように、繰り返せば繰り返すほど、虫害がひどくなり、病気もでるようになります。特にヨトウ虫と呼ばれる蛾の幼虫が土中に増え、防虫ネットをしても防げなくなります。

「無農薬で小松菜が育つわけがない」と言われるゆえんです。

市場流通が発達して、野菜の産地が形成されてきた背景からすると、農家が毎年違う作物を育てていたのでは、都合が悪いわけです。JAには小松菜専用の選別機があり、冷蔵庫があり、ダンボールから、流通の経路、小売店まで、ルートがあります。

今年の春は小松菜で、その次にトマトを作って、冬にたまねぎを・・・

そのような作付け体系では、市場を経由した際に効率が悪くて仕方ない。 だから、特定品目の産地を形成し、効率を追求してきたのが20世紀の農業でした。

もし、流通を大前提としない農業の形があるとすれば 、

「今年の春は小松菜で、その次にトマトを作って、冬にたまねぎを・・・」

ムリをせず、無農薬で、栄養価も美味しさも兼ね備えた農産物をお届けすることが可能なのはこの形です。

農薬や遺伝子組み換えなどを使う一見”効率的”な農業よりも、持続的であり、長い目で見て効率的な仕組みを作ることができる、その仕組みを作るのが久野農園の仕事
だと、僕は考えています。


それでも僕が農業を続ける理由


10年間、沖縄の渡嘉敷島という小さな離島で、理念を追求した有機農業を営んできました。理念ばかりでは、経営できない、持続できないということを学んだ10年でもありました。

お客様も、野菜を届ける人も、野菜を作る人も、みんながハッピーになる仕組みをつくること、それが経営者としての僕の仕事です。

仙人のように山奥にこもって自給自足をする、その生活は確かに楽しいし、一面では充実しています。 そのような暮らしを通して僕たちが享受していたのは、僕たちだけの小さな世界の「農業」の豊かさでした。

今後の10年で僕が目指しているのは、
僕たちが享受してきた「農業」の多面的な豊かさを、より多くの人に感じていただけるような仕組みづくりです。

インターネットを通した無農薬野菜の宅配は、今後も久野農園の重要な仕事のひとつです。

箱を開けた時の色、匂い、感触。
中にはマイナスイオンを感じる!とおっしゃってくださるお客様もいます。

私たちが育てている野菜には、単純で、素朴で、力強いエネルギーがつまっています

インターネットや宅配を通して出会った方々、これから出会う方々とのご縁を通して、
「農業」の多面的な魅力をわかちあいたい、それが僕の願いです。

環境問題や、人の心のケア、閉塞感、生き方の問題
そのような課題に対して、「農業」ができること

その仕組みづくりを僕たちははじめています。





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【*時期、大きさにより単価が変動します】
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